Laboratorism - 新井裕己のハードコア人体実験生活
 
2008.1.28

飯士山西面 このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加

「ラインに芸術性を求めている」と発言してきた。

そそり立つ絶壁は美しい。
白い正三角形も美しい。
狭く細いルンゼも美しい。

そして、作られた滑り台のような地形が、自然の中に現れる奇跡も美しいと思う。

 
そういうところを滑ることに意義を見いだしている自分は、新しい土地でぐるりと山を見回す瞬間に、ある種の興奮を覚えさえする。

苗場山東面を滑った日、越後湯沢の街に降りていくときに、正面に大きな滑り台が見えた。
神立の湯のあたりから見た飯士山
樹林に囲まれた山の中で、なぜかそこだけが滑り台のように無木立の白い一枚バーンになっている。

滑り台は、滑ってこそ滑り台だ。
滑ろう。

早速ノートPCを立ち上げ、地図ソフトを起動する。
山頂直下の肩の部分までリフトがかかっているのが見えるので、山座同定は簡単だった。

飯士山、1111m。

別名「上田富士」と言われ、見る方向によっては富士山型に見える成層火山。
北西から時計回りに南南東までは、見事なまでにスキー場に開発され、山頂近くまでリフトがかかっている越後湯沢のシンボル的な山である。
残る南~西面は、かなり切り立った急傾斜のため、スキー場の開発をまぬがれたということらしい。

あの滑り台は見た目以上にいやらしい。標高が低く、日が当たればあっという間に雪が腐るだろう。
コンディションの見極めがポイントになる。
理想はドカ雪が昼まで続いた後、夜に雪が止めば、雪はパウダーのまま安定する。その翌日の午前中が勝負だ。

リフトアクセスを考えれば岩原スキー場から登ることになるが、帰りは旧ファースト石打側に出ることになる。
登り返したくなければ、車が2台必要だ。

 
この条件が整う日はなかなか訪れなかったが、別に待ち望んでいたわけでもなく、そこまで思い入れていたわけでもなく、条件が整ったときにサックリやったろうと、心の片隅にほったらかしておいたプロジェクトだった。

 
1月27日。ドカ雪の某スキー場2連発でパウダーインフレ起こし、心身ともに疲れ果てたSさんとレストハウスで「明日は晴れますけど、どーしますかね?」と作戦練っていたとき、あの滑り台を思い出した。
条件が揃うチャンスだ。
「一発やっちゃいましょか」

 
翌朝、除雪末端に車を1台デポ。
もう1台で岩原スキー場へ。上部の平日無料駐車場に停め、リフト400円×2本でゲレンデトップへ。

シール歩行はいきなりの狭い尾根で始まる。かなり狭く、急斜面ではキックターン後は2歩程度しか歩けず、またキックターン。しかも左側は雪庇になっていて、一度は見事に崩落させてしまった。ブロックがゲレンデをかすめて沢に流れ込む。危うく危うい。反省。

稜線上に残るウサギの足跡をたどるように、100mちょっとの登りで飯士山山頂へ。25分。お手軽なれど、雪庇と急斜面の間で神経を使う登りだ。

飯士山山頂から岩原スキー場を振り返る

飯士山山頂からドロップポイントになる真東のピークを見る

しばし展望を楽しんで、真東に伸びるヤブの狭い尾根へ。シールを外すか迷ったところだが、結局そのままスキーアイゼンも外さず突入したところ、相当狭い上にヤブが濃く、ヒールフリーでかなり危ない目にあった。

ドロップしたピークから飯士山山頂を振り返る。細いヤブ尾根がいやらしい。

なんとか東のドロップポイントのピークへ。ピーク周辺は踏み抜いた先は笹の地面だった。雪が薄い。

滑り台をのぞき込むと予想通りのすばらしい斜面。全体を通して35~40度の一枚バーンが続く。

準備して、リフトトップからちょうど1時間でドロップ。

今日は2人いるので新井は左側、Sさんは右側を。
左は下に行くに従って、軽くチューブ状になるのが面白い。チューブ内の雪は日陰なので、軽いパウダー。時々硬いクラスト面に当たるくらいの積雪量で、思ったよりスピードが出てしまうので、少々抑え気味に。チューブ地形に当て込んだり、軽くギャップを飛んだりして、さらに下の沢まで吸い込まれる誘惑を振り切って、最後は右に出て終了。

すばらしいとしか言いようがない。アラスカの斜面を思い出させる。
体感は40度弱といったところで、地形図測定とも合致。

Sさんのラインは雪が薄く、岩を踏んだところもあったようだが、中央の軽い尾根地形よりも右に出てからは良いパウダーだったようだ。

滑り台を滑るSさん。中央は岩の上に薄い積雪。

遠目からの期待通りの、すばらしい滑り台だった。
振り返ると滑り台の端にある奇岩「負欠岩(ふっかけいわ)」がいいアクセントになっている。

 
ここからはヤブヤブを覚悟していたが、早めに右へトラバースしたところ、それほどヤブに悩まされずに日陰の沢へ入れた。沢地形内は雪もよく、滑りも楽しめる。
降りすぎないように再度トラバースしていくと、下部に雪に覆われた林道と段々畑が見え、針葉樹の植林帯に入る。ここは濃いめのツリーランといった感じで、ストレスなく滑ったまま、狙っていた林道カーブに合流できた。

林道から振り返る飯士山の滑り台

既に標高低く、ステレオタイプな生コン上越湿雪だが、表面は5mm結晶の表面霜なので、斜度のない林道の割に予想以上に滑ったまま進めた。途中多少はシールなしで軽く登ることになったが、大汗をかくほどではない。

予定通りにデポした車に到着。2時間弱のお手軽ツアーだった。
ここまで予想通りのツアーは珍しいくらいで、予想外の部分はむしろいい方に外れた感じだった。
前日が誕生日のSさんに、よいプレゼントができたと思う。

 
飯士山自体の他ルートの可能性としては、ドロップしたピークから北の沢は日陰で雪もよく傾斜も45度を超えるので楽しいと思う。また、滑り台の右、さらに右右の沢もいいだろう。

しかし、全ては滑り台を滑ってからだ。
チャンスを掴むのは難しいが、これ以上の滑り台には未だお目にかかったことがない。

自然の造形がなす滑り台の奇跡を、越後湯沢で見ることができる。